伊東市議会は31日、臨時会を開き、市長の田久保真紀氏(55)=富戸=に対する不信任決議案を賛成多数で可決した。田久保氏は同日をもって失職した。不信任の失職は県内初。私文書偽造と学歴詐称で混乱と停滞の続いた田久保市政は156日間で終わった。
不信任決議案の採決は起立で行い、賛成19、反対1。反対は片桐基至氏のみだった。四宮和彦氏が発議者として案文を朗読し、説明責任を果たさず個人的不祥事に伴う不信任で市議会解散を選んだ田久保氏の姿勢を、「暴君の所業」と厳しく批判した。市議選後に田久保氏が出演した交流サイト(SNS)のライブ配信にも言及し、「荒唐無稽な持論をもって百条委員会や東洋大を誹謗(ひぼう)中傷し続け、保身を企てる」と断罪した。
今後は50日以内に市長選が実施され、12月7日告示、14日投開票が有力視される。既に元職や新人の4人が出馬の意向を示しており、6~9人程度まで増える可能性もある。
■「精いっぱいやりきった」 市長選出馬明言せず
田久保氏は不信任議決通知書を受け、取材に応じ、これまでの市長生活を振り返った。市長選への出馬については明言しなかった。
市長選については「今日の結果を受け止め、今後支援者と協議して決める」と出馬への明言を避けた。
卒業証書と言われる文書については刑事告発を受けているとし、「何も答えられない」と言葉を濁した。
市長生活について「種をまいたので、市職員に実行に移してほしい。精いっぱいやりきった」と満足感を示した。
田久保氏は市職員のサポートや応援してくれた市民に涙を浮かべ、感謝を述べた。時折声を詰まらせながら混乱を招いたことをわびた。
■賛否討論 1人ずつ
伊東市議会の臨時会で、田久保氏に対する不信任決議案の審議に当たり賛成討論で1人、反対討論には1人が登壇した。
賛成で立った大竹圭氏は「市長として重んじるべきは個人の弁明ではなく市政の安定。市民が求めるのは言い訳ではなく事実を明らかにする姿勢だ。事実に背を向ける政治は市民に背を向ける政治。可決が信頼再生の唯一の道」と述べた。
反対で立った片桐基至氏は「百条委員会に学歴詐称そのものの真偽を審査する権限はない。調査結果を根拠に不信任決議をするのは、行政監視権の乱用。多数派が少数派を排斥する行為」と話した。一部にやじを飛ばす市議もいた。
■【解説】自己保身終始した156日間 市政、市民生活に影響大
伊東市政の“革命”を掲げた田久保市政は、新図書館建設中止以外の公約を一つも果たさず幕を閉じた。私文書偽造と学歴詐称疑惑の混乱、自己保身と説明責任回避、事業先送りに終始した156日間は、今後の市政に影を落とし続ける。
田久保氏は市民生活の不満を背景に、5月の市長選で「徹底的な経済対策」を旗印に1万4684票を得たが、待望の経済対策は最後まで何一つ具体策が示されなかった。
自身の疑惑でも明確な説明はなかった。田久保氏は「卒業していないという事実を知ったのは6月28日」と主張し詐称の故意性を否定するが、東洋大の資料を基に百条委員会は主張を虚偽と認定した。正副議長に見せた卒業証書らしき文書は今も闇の中だ。
田久保市政下では多くの市事業が停滞した。補正予算は必要最低限しか組まれず、個別の案件でも▽小中学校の再編▽重要景観形成地区の指定▽市街地活性化事業―など遅れたものは多い。市民生活への直接的被害は少ないが、将来的には影響を及ぼしそうだ。
この間、顕著だったのがデマと中傷の流布だ。8月には市職員の実名を載せた中傷ビラがまかれ、市議選時には賄賂が配られた旨のデマが交流サイトで拡散された。男女関係のゴシップを言いふらす人もいた。ついには新市議の自宅に殺害をほのめかす脅迫文まで届いた。田久保氏にも8月、爆破や殺害を示唆する電話やメールがあった。
12月には市長選が行われる。ここで市政の遅れを挽回する、実行力ある候補者を選ぶべきだ。同時に民主主義を破壊するデマや中傷、脅迫を許してはならない。出馬する各候補者の陣営には厳に公正な選挙を求めたい。
■市長報酬 総額627万円超
田久保氏が5月の就任以来、受け取る市長報酬は総額で627万6477円になった。内訳は月額給与435万2727円(5~10月分)、退職手当192万3750円。失職の場合、期末手当は支給されない。
■市民から「肯定」多数 支援者からは落胆も―市長失職
伊東市議会臨時会で31日、2度目の不信任決議案が可決され、田久保真紀市長の失職が決まった後、本紙は市民の生の声を集めた。失職について肯定する意見が多かった一方、田久保氏の支援者からは落胆の声も聞かれた。
川奈の無職女性(65)は「失職は当然の報い。田久保市長は次の市長選に出るべきではないし、(学歴詐称疑惑などの)罪を償ってほしい」と訴え、玖須美元和田の自営業男性(57)も「(失職と聞いて)非常に良かった。一連の騒動で伊東が良くないイメ―ジで全国に知れ渡り、一商業者として不安だった。今後の市政には、数カ月にわたる混乱を一刻も早く挽回してほしい」と願った。
松原の飲食業女性(87)は「どうして見えを張ってしまったのか。最初は応援していたし、伊東を変えるためにもっと頑張ってもらいたかった」、松原の宿泊業男性(80)は「素直に謝っていればこんな大事にはならなかった。誰が市長選に出るか分からないが、街中をにぎやかにしてほしい」、池の無職(元保養所パート職員)女性(80)は「同じ女性の市長が頑張ってくれるかなと思っていたため少し残念に思うが、仕方がない結果」と述べた。
田久保市長を支援する八幡野に住む自営業女性(62)は「改革の波を止められ、非常に残念だ。マスコミの偏向報道のせいでもある」と声を荒らげた。
■田久保氏 一問一答
□就任後すぐ騒動の日々 市長選現時点で未決定
田久保氏が不信任決議案可決後に応じた取材の要旨は次の通り。
―不信任決議案可決への率直な感想は。
案の可決というよりも、災害復旧のための補正予算を速やかに市民に届けるために前倒しで臨時会を開いた。9月定例会では不信任決議が優先され、人事案件や補正予算が審議されないままだった。今日は滞りなく審議が進み、その後に不信任決議が出たということでほっとしている。
―失職が決まったが、市長選の考えは。
今日は決定が出たことを受け止め、この先の市長選について、支援者とよく話し合いながら、自身と向き合って決めたい。現時点での明言は避けたい。
―市長在任5カ月間で何を変え、記憶に残ったことは。
就任してすぐに騒動があり、目まぐるしい日々だった。市民の皆さんと約束したことは実行したいと一生懸命励んできた。
―改革の火という話をしてきた。本当にしたかった改革は何パーセント進んだか。
パーセントというよりは、今日の議会で新人議員2人が討論に立ってくれた。その姿を見て、ある意味ここから前に進む、そのような気持ちで今日は見ていた。
―7月の段階で辞職を考え直したことについて「あの時辞めていればな」という後悔はあるか。
選挙のテクニックとしてそこで辞めておいた方が有利だというアドバイスはあった。ただ、その時点その時点で「今これだけはしておきたい」といったようなものがあった。例えば、メガソーラーの問題で県に対し市長として意見書を書きながら「これを書くことができた」ということに関しては感慨深いものがあった。
―意見書の提出は見送ったのではないか。
その通り。首長の責任として、市民からの付託でどのような姿勢を示すのか、意見書に何を示すかは非常に重要で、私なりの思いでしっかりと書かせていただいた。
■議長に中島氏再任 副も青木氏―市議会臨時会
伊東市議会臨時会では不信任決議案以外に、正副議長や委員会構成を決めた他、災害復旧に関する一般会計補正予算案など12案件を可決した。正副議長には、いずれも前任者である中島弘道氏が議長、青木敬博氏が副議長に選任された。
委員会構成は次の通り(◎は委員長、○は副委員長)。
【議会運営委員会】◎大川勝弘、○佐藤周、長沢正、河島紀美恵、虫明弘雄、四宮和彦
【総務委員会】◎杉本一彦、○長沢正、重岡秀子、中島弘道、浅田良弘、大川勝弘、佐藤周、宮崎雅薫
【観光建設委員会】◎井戸清司、○村上祥平、竹本力哉、河島紀美恵、四宮和彦、青木敬博
【福祉文教委員会】◎鈴木絢子、○虫明弘雄、片桐基至、篠原峰子、大竹圭、犬飼このり
■正副議長の略歴
中島 弘道氏(なかじま・ひろみち)65 無前(4) 民宿経営 前議長 伊東食品衛生協会専務理事 法政大卒 宇佐美
青木 敬博氏(あおき・よしひろ)55 無前(4) 広告会社代表 前副議長 元門野中PTA会長 PALビジネス専門学校卒 荻
■市へのクレーム総数は1万2210件
市役所に31日に届いた田久保市長の騒動に関するクレーム・意見は81件(電話57件、メールなど24件)だった。失職を確認する電話や安心したといった声が届いた。
これまでの総数は1万2210件(電話5804件、メールなど6406件)になった。
